ビールの醸造は「上面発酵」と「下面発酵」に分類されます。その名称は、発酵した酵母が液体の上面に浮かぶ、あるいは下面に沈むことに由来し、上面発酵の代表がイギリスの「エール・ビール」、下面発酵の代表が「ラガー・ビール」です。
上面発酵と下面発酵において、酵母の性質による違いよりも重要なのは、発酵の温度と時間です。上面発酵のエールが、常温のまま短期間で発酵と熟成を行うのに対して、15世紀に生まれた下面発酵のラガーは、低温のまま長期間ゆっくりと発酵および貯蔵・熟成を行う必要がありました。
下面発酵は途方もない手間と費用を要していた!?
下面発酵のラガーには低温を維持する仕組みが必要です。人口の冷却装置が発明されるまでは、寒冷な地方で冬季に仕込んだり、洞窟や氷室などで貯蔵したり、雪や氷を遠くから運ぶという、途方もない手間と費用を要していました。
また、醸造所内の殺菌も行き届かず、ビールのろ過装置も不完全だったため、どの工程でも野生酵母や雑菌による変質の危険がありました。そのため、バイエルンでは、19世紀に入っても醸造期間は9月29日から翌年の4月23日に制限されていました。
アンモニア式冷凍機の発明
こうした困難を解消したのが技術革新でした。さまざまな技術革新が進む中、1873年にドイツの技術者カール・フォン・リンデによって、アンモニア式冷凍機が発明されました。これにより、下面発酵のラガーは、天然氷の入手に奔走する必要がなくなり、一年中どこでも醸造することが可能になったのです。
近代ビールの三大発明
ビールをいつでも作れるようにしたリンデの「アンモニア式冷凍機」、どこへでも運べるようにしたパスツールの「低温殺菌法」、安価に大量に作れるようにしたハンゼンの「酵母純粋培養法」の3つは、のちに「近代ビールの三大発明」と呼ばれます。
パスツールの「低温殺菌法」、ハンゼンの「酵母純粋培養法」については、下記の記事に記載していますので、あわせて読んでみて下さい。